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アスリートの筋力トレーニング①

今回の記事では、アスリートの筋力トレーニングについて考えてみたいと思います。
 競技スポーツの世界では、選手の技術、体力がパフォーマンスの決定要因となり、わずかな差で勝敗が決します。特に陸上競技や競泳など記録系の競技種目では、1/100秒の違いで自己記録の更新、メダルの色が決まるため、選手は自らの長所、短所を把握した上で、いかに効果的に技術練習と体力トレーニングを実施できるかがパフォーマンス向上において重要になります。

 筋力トレーニングは、高校生からマスターズアスリートに至るまで、多様な世代のアスリートの体力強化手段として取り入れられています。しかし、長期にわたる競技生活において筋力トレーニングが実際にパフォーマンス向上にどれほど貢献しているのかについては、意見が分かれるところではないでしょうか?多くのアスリートが筋力トレーニングを継続して実施しているにも関わらず、その有効性を感じているのは一部に過ぎないのではないかと思います。

今回の記事では、筋力トレーニングをより効果的に行うためのアプローチについて、私の考えをご紹介します。

           Contents

  1. 筋力トレーニングがパフォーマンス向上に繋がらない理由
  2. 競技スポーツにおける筋力トレーニングの位置付け
  3. アスリートのトレーニング指導において私が大切にしていること
  1. 筋力トレーニングがパフォーマンス向上に繋がらない要因
    理由1:トレーニング計画が競技の特性や選手のニーズに合致していない
     以下の図は、伝統的なピリオダイゼーションの典型例(線形ピリオダイゼーションとも呼ばれる)で、重要な試合に向けてトレーニング強度とトレーニング量を段階的に変化させていくというものです。このピリオダイゼーションの概念は、旧ソ連や旧東ドイツといった東欧圏のスポーツ科学者やコーチによって考案され、1950年代にはアメリカやヨーロッパの国々でも採用されていました(Designing Resistance Training Programs 3rd Ed.)。ストレングス&コンディショニングの専門職がトレーニング計画について最初に学ぶのがこの伝統的ピリオダイゼーションです。

 現在でも多くのコーチがこのピリオダイゼーションに基づいてトレーニングの期分けを考えていると思います。この線形ピリオダイゼーションには期分けをしないトレーニングと比較して、オーバートレーニングに陥りにくい、筋力の改善率が高いなどのメリットがありますが、シーズンが長期に及ぶ競技種目では適用しにくい、個人の特性を考慮した計画を立てづらいなどのデメリットがあります。
私が特に問題だと思うのは、
筋肥大を行うメゾサイクルにおいて技術練習へのマイナスの影響が大きい
筋力期、ピーキング時期に選手の筋肉量を維持するのが難しい
という点です。伝統的なピリオダイゼーションの問題点を改善するために非線形のピリオダイゼーションが考案されましたが、運用する上でのメリットとデメリットを把握したうえで、選手の競技会での結果を元に計画を改善し続けることが大切だと思います。ピリオダイゼーションについては、別の機会に詳しく解説する予定です。

理由2:原則に則ったトレーニングができていない
 大学生アスリートと話をすると、『自分の行っているトレーニングが適切かどうかよくわからない』という声をよく聞きます。このような疑問が生じた場合、トレーニングの原則に立ち戻って考えることをお勧めします。トレーニング関連の教科書には、トレーニングの原則が必ず記載されています。
私がトレーニング指導で特に重要だと考えているのは以下の3つの原則です:
過負荷の原則、特異性の原則、漸進性の原則。

過負荷の原則とは、慣れているトレーニング強度よりも高い強度でトレーニングを行うことです。特異性の原則は、身体に与えられたトレーニング刺激が、それによって生じる適応を決めるというものです。漸進性の原則では、トレーニング強度が徐々に高まるようにトレーニングを実施することです。

競技パフォーマンスの向上には様々な要因が関わってきますが、スクワット、クリーン、ベンチプレスなどのエクササイズパフォーマンスが停滞している場合は、これらの原則に基づいているかどうかを再検討することで、改善のヒントが見つかるかもしれません。

理由3:競技特異性の認識が間違っている
 トレーニングの現場では競技動作の特定の局面を取り上げて、”この姿勢で筋力トレーニングを行うことで、より競技に近いトレーニングになる”というように“特異的な”分習法を考案したり、競技特異性を考えに考えた末にボクシングエクササイズに辿り着いてしまう指導者、コーチがいます(ボクシングエクササイズを否定している訳ではないです)。


 スポーツバイオメカニクスの専門家、ストレングスコーチの立場からこのような場面に遭遇すると、“特異性”を考えることの難しさを痛感します。上記のようなトレーニングの効果はおそらく限定的であると思いますし、実際の競技動作に悪影響を及ぼす可能性もあります。また、これらのエクササイズに多くの時間を取られてしまい、技術練習の時間を奪ってしまうこともあります。陸上競技短距離選手は全力で走ること、水泳選手は全力で泳ぐことが最も効果のあるトレーニング方法であり、野球の守備力向上には1球でも多くノックを受けることが重要だと思います。

理由4:エクササイズ選択が間違っている【体幹部の筋群に対する負荷が小さい】
 筋力トレーニングの効果がパフォーマンスに結びつかない要因の一つにエクササイズ種目の選択、バランスの悪さがあると考えています。体幹部のトレーニング方法については、また別の記事で取り上げたいと思いますが、下肢の筋群、大胸筋、広背筋といった大きな筋群に対しては、12RM-5RMという比較的高い強度で負荷をかけていても、体幹部の筋群(ここでは、腹直筋、外内腹斜筋、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋とします)に対する負荷が小さい、あるいはエクササイズ種目が少ないトレーニングメニューをよくみかけます。全身の筋力バランスを考えると、体幹部の筋群を個別にトレーニングする意識が重要になると考えています。


理由5:体重増加を考慮していない
 競泳、自転車競技、陸上競技のトラック種目、スピードスケートなどの移動時間を競う競技では、筋の肥大による体重の増加がパフォーマンスにマイナスの影響を及ぼす可能性があります。これらの競技では、過度の筋肥大を避けるために、競技に必要となる筋形態、筋機能を高めるための専門的筋力トレーニングが重要になります。競技スポーツのトレーニングにおいて難しいところではありますが、先ほど挙げた特異性と関連するところでもあります。競技動作に特化したトレーニング方法は今後紹介していきます。


理由6:試合期の調整方法が適切でない
 試合に向けた調整期において、選手の疲労度のみに基づいてコンディションを評価しようとすると、トレーニングによる疲労を過度に避けようとして、コンディション調整は間違った方向に進みます。二要因理論に基づいて、フィットネス(身体の適応状態)をできるだけ高く保つことを意識することで、試合直前のコンディション調整はより効果的に行うことができます。

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