前回に引き続き、競泳のスタート動作に関する論文を紹介します。
『Plyometric long jump training with progressive loading improves kinetic and kinematic swimming start parameters.』(2014) Vanessa Z. Rebutine et al. Journal of Strength and Conditioning Research, 30(9), 2392-2398.
前回の記事では、レジスタンストレーニングによって垂直跳びの跳躍高は向上したが、競泳スタートにおける飛距離に変化はみられなかったというBreed and Young(2003)の論文を紹介しました。彼らの論文では、競泳スタート動作を改善するためには特異的なトレーニングが必要であるという結論でした。今回紹介するVanessa et al.の論文は競泳スタート動作にちかいplyometric long jump【long jumpは立幅跳び、plyometricは筋の伸張‐短縮サイクル運動を伴う動作で、“反動動作を用いた立幅跳びトレーニング”というような意味です】をトレーニングとして行うことで、競泳スタートのパフォーマンス、動作がどのように変化するのかを調べた研究です。
Plyometric Long Jump
トレーニングの前後に行う測定項目
・等尺性最大筋力【股関節と膝関節伸展筋力】
・競泳スタート台上でのキックスタート動作と台上での反力
Plyometric long jump トレーニングについて
・9週間週に2回トレーニングを実施 トレーニングの間隔は48時間
・9週間のトレーニング期間で最初の2週間は8回の立幅跳びを最大努力で8回×2セット(跳躍間のレストは1分)。残り7週間は最大努力での2回連続の立幅跳びを15セット(セット間の休息は2分;計30回の跳躍). このトレーニングは競泳のスタート台と同じ8.6°の傾斜台の上で実施した。
トレーニング負荷はベストを着用し腹部にウエイトを固定した。負荷の設定:スクワット1RMの値の5%―15%。
結果
Plyometric long jumpのトレーニングを9週間実施した結果は下記の通り。
・股関節のピークトルクはトレーニングによって47%増加.股関節トルクの立ち上がり率(rate of torque development)は108%増加。
・膝関節のピークトルクはトレーニングによって24%増加.膝関節トルクの立ち上がり率は41%増加。
・競泳スタート台上での水平方向の力のピーク値、力積はそれぞれ6.9%、9.3%増加。
・スタート台からの飛距離は7%、スタート台離台時の重心の水平速度は16.3%増加。
・スタート台離台時の鉛直速度と鉛直方向の地面反力に変化はみられなかった。
この研究の結論は、負荷を加えたPlyometric long jump(立幅跳び)トレーニングによって、股関節と膝関節の関節トルク(筋力と考えてください)、力の立ち上がり率は向上し、競泳の台上スタート動作における飛距離、離台時の重心の水平速度も増加したので、垂直跳びなどの鉛直方向の跳躍トレーニングよりも水平方向の跳躍トレーニング(立幅跳び)の有効性を主張しています。
一方、この研究においてもBreed and Young(2003)の論文と同様に離台時の身体重心の鉛直速度には変化がみられませんでした。この点に関して論文の著者は、高度にトレーニングされたレベルの高いアスリートにはトレーニングの特異性がより重要になると述べていますが、トレーニングの内容を考えるよりも、競泳の台上スタートにおいて鉛直方向の重心速度がどのように増加するのか、そのメカニズムを明らかにすることが重要だと思います。次回の記事では、我々が行った研究を紹介します。
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