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自転車競技のスタート動作に関する研究①

 今回は自転車競技のスタート動作についてまとめた私の論文のデータを紹介し、データを元にどのような筋力トレーニングを行えばよいかを考えてみたいと思います。

論文

  • 自転車競技の発走機を用いたスタートにおける体幹および上肢のキネマティクスとパフォーマンスの関係.         池田祐介, 高嶋渉, 貴嶋孝太, 太田洋一, 村田正洋.トレーニング科学 23(1) 21-30,2011年.
  • 自転車競技におけるパワーと技術.池田祐介.バイオメカニクス研究16 (4), 274-282, 2012年.
  • 自転車競技の発走機を用いたスタートにおけるスタート準備動作とパフォーマンスの関係.                     池田祐介, 高嶋渉, 貴嶋孝太.トレーニング科学 24(4) 279-290,2013年.

スタート局面の重要性
自転車競技短距離種目におけるチームスプリント、1km、500mでは自転車の後輪を発走機に固定し、選手はカウントダウンされる数字をみながらスタートを行います。

固定された自転車上で,選手は自由に身体を動かすことが可能なので、ストッパーが開放される約1秒前にサドルの後方に腰を引いて、カウントダウンのゼロに合わせて腰を前進させてペダルの踏み込み動作を行います(スタート準備動作)。
 下記の図は、2012年の自転車競技世界選手権の男子チームプリントにおける各走者のタイムとゴールタイムとの関係を表しています。図1(B)~(D)をみると、第一走者のタイムとゴールタイムとの相関係数が最も高く、第一走者のタイムは15m通過タイムと高い相関関係にあることから、チームスプリント競技においては、第一走者のスタート局面(スタートから15mまで)のパフォーマンスが重要になることがわかります。

 

さらに詳しく、スタート局面のパフォーマンスについてみていきます。
下記の図は、1kmタイムトライアル(男子自転車競技選手36名)における1m通過タイムと10m通過タイムの関係(A)、ギア比と10m通過タイム(B)との関係を示したものです。図(A)から10m通過タイムはスタート直後1m、約0.5秒でほぼ決まっていると言えます。また、自転車のギア比が高いとスタートのパフォーマンスは遅くなると考えられていましたが、図(B)からギア比はスタート局面のパフォーマンスには関係していないといえます。自転車競技のトレーニング現場では、発走機からのスタートパフォーマンスを高めるために、実走での10m走や高負荷(12kp-15kp)を用いた自転車エルゴメータートレーニングが行われていますが、データを元にすると重いギアを回す能力(=筋力・パワー)ではなく、別の要因が影響していると考えた方が正しいトレーニングができそうです。

スタート局面のパフォーマンスを決める要因
 では、どのような要因がスタート局面のパフォーマンスと関係しているのでしょうか?動作分析の結果を紹介します。
下記の図は、ストッパー解放時(スタートシグナルが0になったとき)の大転子の水平速度(X軸)と1m通過タイム、10m通過タイムとの関係を示しています。

 大転子(腰)の水平速度は1m、10m通過タイムとの間に有意な負の相関がみられることから,スタート局面において大きな加速を得るためには,発走機のストッパー解放時にいかに前方への重心速度を高められるかが勝負といえます。下記の図はスタート局面のパフォーマンス高いA選手と、パフォーマンスが低いB選手の腰と自転車の速度曲線を示しています。前方への腰の速度が遅いと自転車の速度の立ち上がりも遅いことがよくわかると思います。


次回の記事では、重心速度を高めるための準備動作と筋力トレーニングについて考えていきます。

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