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研究論文の紹介_競泳のスタート動作➀

 今回はトレーニング科学が専門のW.B Young教授(Federation University Australia)が共著者になっている競泳のスタート動作に関する下記の論文を紹介します。
『The effect of a resistance training programme on the grab, track and swing starts in swimming』(2003) Ray V.P. Breed and Warren B. Young. Journal of Sports Sciences, 21, 213-220.

プライオメトリクスをテーマに研究を進めていた大学院生時代、彼が書いた論文にはすべて目を通して勉強しました。彼の論文は競技パフォーマンス向上のために実験データをどのように活用するか?という視点で書かれていて、非常に参考になります。

今回紹介する論文の研究目的は、
垂直跳びの跳躍高を高めるためのレジスタンストレーニングは競泳のスタートパフォーマンス向上に有効であるかを検証すること
そのために以下の3つの課題について検討した。
➀垂直跳びの跳躍能力はグラブスタート、スイングスタート、トラックスタートのスタート技術と関係しているのか?
②レジスタンストレーニングによって垂直跳びの跳躍能力、他の機能テストの結果は改善するのか?
③レジスタンストレーニングによって競泳のスタート(グラブスタート、スイングスタート、トラックスタート)技術は改善するのか?

テスト試技:
・腕の振込みあり・腕の振込みなし垂直跳び
・股関節の伸展動作によるオーバーヘッドスロー(2.73kgの砲丸を使用)
・等速性脚伸展筋力テスト(0.44rad/s, 0.70rad/s)
・競泳スタートテスト 以下の三種類のスタートを実施.グラブスタート(両足を揃えて構える)、スイングスタート(リレーで用いられるスタート)、トラックスタート(両足を前後に開いて構える).

レジスタンストレーニング:
週3回、9週間のトレーニングを実施.トレーニングの目的は垂直跳びの跳躍高を高めること.

結果と考察
では、この研究の課題①~③に対する答えです.
まず一つ目の課題
➀垂直跳びの跳躍能力はグラブスタート、スイングスタート、トラックスタートのスタート技術と関係しているのか?
図1は垂直跳び跳躍高とグラブスタート、スイングスタート、トラックスタートの飛距離との関係を示しています.図中の数字は相関係数を示していて、この数字が1にちかいほど、二つの変数間の関係が強いことを示しています。3つのスタートの飛距離は垂直跳びと有意な相関関係にあり、垂直跳びが跳べる選手ほど、競泳スタートにおける飛距離も大きいということがわかりました。
 一方で、等速性筋力とスタートの飛距離との間に有意な相関関係はみられませんでした.下肢の筋力が大きい選手が競泳のスタートで遠くに跳べるわけではないという結果です.

2つ目の課題
②レジスタンストレーニングによって垂直跳びの跳躍能力、他の機能テストの結果は改善するのか?
この研究の新規性のひとつは、競泳競技以外の選手にレジスタンストレーニングを行わせて、競泳のスタート動作がどのように変化するのか?をみるところにあります.9週間のレジスタンストレーニングによって、2種類の垂直跳び、0.44rad/sでの等速性脚伸展筋力はトレーニング後に有意に増加したという結果でした.

3つ目の課題
③レジスタンストレーニングによって競泳のスタート(グラブスタート、スイングスタート、トラックスタート)技術は改善するのか?
では、垂直跳びの跳躍力向上によって、競泳スタートのパフォーマンスも向上したのでしょうか?
結果は、『3種類のスタート動作においてトレーニング後の飛距離に有意な変化はみられなかった.』というものでした。
垂直跳びの跳躍高が上がっても、競泳のスタートの飛距離は変わらないというのがこのトレーニング実験で得られた結果です。この結果は論文の著者の仮説と異なるもので、パフォーマンスへの転移が生じなかった原因として、競泳のスタート動作に特異的なトレーニングが不足していたことを挙げています。

この結果についての解釈は、研究者、競泳コーチによって異なると思いますが、私はこの論文の結果から競泳スタートの研究およびトレーニング方法の作成において大きなヒントを得ました。

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